なぜインタビュー記事に論理構成が必要なのか?
インタビューの現場では、話が盛り上がって話題が前後したり、本筋から少し脱線したりすることは日常茶飯事です。しかし、その場のライブ感をそのまま文字に起こしただけでは、話の核心やインタビュイー(話し手)の本当に伝えたかったことが見えにくくなります。論理構成という名の「編集の地図」を持つことで、情報の交通整理を行い、読者をゴールまで迷わせることなく案内できるのです。ここでは、構成が記事の価値をいかに高めるかを考えていきましょう。
単なる「Q&A」と「記事」の違い
Q&A形式は、特定の質問に対する答えを簡潔に知りたい場合には有効です。しかし、それはあくまで情報の断片的なリストに過ぎません。一方、論理構成がしっかりした「記事」は、読者の感情や思考に寄り添うように設計されています。例えば、インタビュイーの苦労話の後に成功体験を配置することで、読者はより深い感動を覚えるでしょう。このように、情報の提示順序を工夫することで、単なる事実の確認を超えた「共感」や「納得感」を生み出すのが論理構成の力です。インタビュイーの人柄や哲学といった、目に見えない価値まで描き出すことができるのです。
読者の離脱を防ぐ「話の流れ」の作り方
読者が記事を読み進めるのをやめてしまう(離脱する)大きな原因の一つは、「話の流れがわからなくなった」ときです。次に何が語られるのか予測がつかない、あるいは話があちこちに飛んで混乱してしまうと、読者はストレスを感じてしまいます。これを防ぐには、一本の「ストーリーライン」を意識することが重要です。例えば、「問題提起→原因分析→解決策の提示→未来への展望」といったように、読者の思考を導く流れを設計します。この流れがあることで、読者は「なるほど、次はこういう話だな」と安心して読み進めることができ、最後まで興味を失うことなく記事に集中してくれるのです。
インタビュイーの魅力を最大限に引き出す技術
優れた論理構成は、インタビュイーの魅力を増幅させる効果があります。インタビュー中、話し手は様々なエピソードや考えを断片的に語ることが多いです。それらの言葉を、書き手が意図をもってつなぎ合わせ、文脈の中に正しく配置し直すことで、一つひとつの発言が持つ意味がより深く、豊かになります。例えば、ある決断について語った言葉の前に、その人が大切にしている価値観に関する発言を置くことで、その決断の背景にある人柄が浮き彫りになります。このように言葉を戦略的に配置することで、読者はインタビュイーの人間性や専門性の奥深さを感じ取ることができるのです。
インタビュー素材を「線」でつなぐ準備
魅力的な記事を構成するためには、まず元となる素材を丁寧に整理する準備段階が欠かせません。録音された音声という流動的な情報を、編集可能な「文字」という静的な情報へと変換し、そこから記事の骨格となる要素を抽出していく作業です。この準備を丁寧に行うことで、後の構成作業が格段にスムーズになります。ここでは、文字起こしからテーマ設定まで、話を一本の線としてつなぐための具体的な準備ステップを見ていきましょう。
文字起こしとキーワードの洗い出し
すべての土台となるのが、インタビュー音声の文字起こしです。この作業は時間がかかりますが、省略せずに全ての発言を文字にすることが重要です。文字化することで、話の流れ全体を客観的に俯瞰できるようになります。次に、起こしたテキストを読み込みながら、記事の核となりそうな「キーワード」を拾い出していきましょう。キーワードの候補には以下のようなものがあります。
- 繰り返し登場する単語やフレーズ
- インタビュイーが特に感情を込めて語っていた部分
- 記事のテーマに関連する専門用語や固有名詞
- 読者が「おっ」と思うような印象的な比喩や表現
これらのキーワードをリストアップすることで、話の要点が整理され、構成のヒントが見えてきます。
記事の「ゴール」と「読者」を定める
キーワードを眺めながら、次はこの記事を通して「何を一番伝えたいのか(ゴール)」、そして「誰に届けたいのか(読者)」を明確に定めます。この二つが曖昧なままでは、どの情報をどのくらいの深さで書けばいいのか判断ができません。例えば、ゴールが「未経験者がIT業界に挑戦する勇気を与えること」であれば、インタビュイーの失敗談やそれを乗り越えた経験談を中心に構成することになるでしょう。読者が専門家であれば専門用語の説明は不要ですが、初心者であれば丁寧に解説する地の文が必要になります。ゴールと読者を具体的に設定することで、数あるエピソードの中から使うべき素材を取捨選択する明確な基準が生まれるのです。
伝えたいメッセージから逆算する構成案
記事のゴール、つまり読者に最終的に持って帰ってほしいメッセージが決まったら、そこから逆算して構成案を考えるのが効果的です。これは「結論」という山の頂上を最初に設定し、そこへ至る登山ルートを設計するようなものです。例えば、「挑戦し続けることが大切だ」というメッセージを伝えたい場合、その根拠となる具体的なエピソードを複数選び出し、説得力が高まる順番に配置します。
「結論:挑戦は大切」→「理由・根拠:なぜなら新しい可能性が広がるから」→「具体例1:Aという挑戦での成功体験」→「具体例2:Bという挑戦での失敗から得た学び」→「再結論:だからこそ、挑戦し続けることに価値がある」
このように結論から逆算して考えると、話の筋道がブレにくく、論理的で説得力のある構成を効率的に作ることができます。
実践!インタビュー記事の代表的な論理構成パターン
インタビューで得られた素材を、どのような順序で並べれば最も効果的に伝わるのでしょうか。幸いなことに、インタビュー記事にはいくつかの代表的な「型」が存在します。これらの構成パターンを知っておくことで、記事の目的やテーマに応じて最適な見せ方を選ぶことができます。ここでは、現場でよく使われる3つの構成パターンを、それぞれの特徴と効果的な使い方とともに学んでいきましょう。型を知ることは、思考を整理し、執筆を効率化するための近道です。
物語として読ませる「時系列構成」
「時系列構成」は、物事の時間の流れに沿って話を展開していく、最も直感的で分かりやすい構成パターンです。インタビュイーの半生や、あるプロジェクトが始動してから完了するまでの道のりなどを描く際に特に効果を発揮します。過去・現在・未来という大きな流れを作り、その中に具体的なエピソードを配置していくことで、読者はあたかも一本の映画を観るように物語に没入することができます。例えば、「幼少期の原体験」→「キャリアの転機となった出来事」→「現在の活動」→「今後の展望」という流れで構成すれば、一人の人間の成長や思想の変遷がドラマチックに伝わり、読者の深い感情移入を促すことができるでしょう。
複数の話題を整理する「テーマ別構成」
インタビューで「仕事観」「プライベートの過ごし方」「今後の夢」など、多岐にわたる話題が語られた場合に有効なのが「テーマ別構成」です。この構成では、関連する発言をトピックごとにグループ分けし、それぞれを見出しとして独立させます。
例えば、
仕事で大切にしていること、休日のリフレッシュ方法、
5年後の自分へ
といった形です。これにより、読者は自分の興味がある部分から読んだり、情報を探しやすくなったりするメリットがあります。各テーマ内では、PREP法などを用いて小さな論理構造を作ると、さらに分かりやすくなります。様々な側面からインタビュイーの多面的な魅力を伝えたい場合に最適な構成です。
結論から伝える「逆算型(PREP法)構成」
ビジネスパーソンへのインタビューや、何らかのノウハウ、専門的な知見を伝える記事で絶大な効果を発揮するのが「逆算型(PREP法)構成」です。PREPとは、Point(結論)、Reason(理由)、Example(具体例)、Point(再結論)の頭文字を取ったもので、最初に最も重要なメッセージを提示するのが特徴です。忙しい読者に対して、記事の要点を素早く伝えられるメリットがあります。
Point(結論) | 「成功の鍵は、徹底した顧客理解にあります」 |
Reason(理由) | 「なぜなら、顧客の本当の課題が見えなければ、解決策も的外れになるからです」 |
Example(具体例) | 「例えば、私たちのチームではAという手法で顧客の声を分析し…」 |
Point(再結論) | 「このように、顧客理解こそが全ての事業活動の起点となるのです」 |
この構成を用いることで、記事の説得力が格段に増し、読者の深い理解を促すことができます。
[FAQ] インタビューが盛り上がらなかった場合、どう構成すればいいですか?
必ずしも全てのインタビューが盛り上がるわけではありません。口数が少ない方だったり、話が広がらなかったりすることもあります。そんな時でも、諦める必要はありません。まずは文字起こししたテキストを丹念に読み返し、わずかながらも共通して語られているテーマや、一言だけポツリと語られた本質的な言葉を探し出します。たとえ一つひとつのエピソードが小さくても、それらをつなぎ合わせることで、一つのメッセージを浮かび上がらせることは可能です。例えば、「仕事」という大きなテーマで面白い話がなくても、「道具へのこだわり」や「朝の習慣」といった小さなトピックに焦点を当て、そこからその人の仕事観や人柄を類推させるような構成を考えます。派手なエピソードがなくても、静かで誠実な人柄を伝える深みのある記事は作れるのです。
読者を引き込む「つなぎ」の表現テクニック
論理的な骨格である構成案が完成したら、次はその骨に血肉を通わせるライティングの段階に入ります。インタビュイーの発言と発言、段落と段落をいかに滑らかにつなぐかが、記事の読みやすさを大きく左右します。良い「つなぎ」は、読者を物語から振り落とすことなく、自然な流れで次の展開へと導くガイドの役割を果たします。ここでは、読解を助け、記事にリズムを生み出すための具体的な表現テクニックを紹介します。
発言を補足する「地の文」の役割
インタビュイーの発言をただ並べるだけでは、記事は完成しません。発言の間を埋める「地の文(じのぶん)」が非常に重要な役割を担います。地の文の主な役割は以下の通りです。
- 背景情報の説明: 発言の背景にある状況や人間関係を説明し、読者の理解を助ける。
– 専門用語の解説: 専門的な言葉が出てきた際に、初心者にも分かるようにやさしく言い換える。
– 話の要約と転換: ある話題の終わりで内容を要約し、「続いて、話題は〇〇に移る」といった形で次の話へ橋渡しする。
– 時間や情景の描写: インタビューが行われた場所の雰囲気や、話している時のインタビュイーの表情を描写し、臨場感を出す。
これらの地の文を効果的に使うことで、記事に深みと読みやすさが生まれます。
時間や場面の転換をスムーズに見せる接続表現
記事の中で時間軸が移動したり、話題が大きく変わったりする際には、読者が混乱しないように明確な合図を出すことが大切です。その合図となるのが、場面転換を示す接続表現です。例えば、過去の話から現在の話に移る際には、「それから3年後、彼は大きな決断を下すことになる。」のように、時間の経過を示す一文を入れます。また、仕事の話からプライベートの話に切り替わる際には、「一方、仕事でストイックな彼だが、プライベートでは意外な一面を持つ。」といったフレーズが有効です。これらの表現があることで、文脈の切れ目が滑らかにつながり、読者はストレスなく話の展開を追いかけることができます。
[FAQ] インタビュイーの言葉はどこまで変えていいのですか?
これは多くの書き手が悩むポイントです。結論から言うと、「発言の意図やニュアンスを絶対に曲げない」という大原則を守れば、ある程度の編集は許容されます。具体的には、「えーと」「あのー」といった意味のない言葉(フィラー)の削除、倒置表現を正しい語順に直す、「〜みたいな感じ」を「〜のようです」と整える、といった作業は、むしろ読みやすさを向上させるために推奨されます。ただし、発言の一部だけを切り取って本来の意図とは違う意味に見せたり、言ってもいないことを創作したりするのは、書き手としての倫理に反する行為であり、絶対にやってはいけません。編集後は、可能であれば本人に確認(本人校正)を取るのが最も丁寧で安全な進め方です。
まとめ
インタビュー記事の質は、取材力だけでなく、その後の論理構成力に大きく左右されます。断片的な話を、読者の心に響く一本の線としてつなぎ直す作業こそ、ライターの腕の見せ所です。今回ご紹介したポイントを意識して、ぜひ読者が最後まで夢中になるような魅力的な記事を作成してください。
- 構成の重要性: インタビュー記事は単なるQ&Aではない。読者の理解と共感を深める「物語」として論理的に再構成することが不可欠。
- 準備段階: 文字起こしで全ての発言をテキスト化し、キーワードを抽出。記事のゴールと読者を明確に定めてから構成案を考える。
- 構成パターン: 物語的な「時系列構成」、多角的に見せる「テーマ別構成」、説得力を高める「逆算型(PREP法)構成」を、目的に応じて使い分ける。
- つなぎの技術: 発言を補足する「地の文」や、場面転換をスムーズにする接続表現を駆使し、読者を自然に導く。
余談ですが、優れたインタビュアーは「聞き出す力」だけでなく、相手の話を整理しながら聞く「構造化の力」も持っていると言われます。彼らは話を聞きながら、頭の中で無意識にこの記事で解説したような構成を組み立てているのです。「このエピソードは、あの話とつながるな」「この話は結論の後に置くと効果的だろう」といった思考です。つまり、良いインタビューを行うこと自体が、実は最高の記事構成の準備になっているわけです。書く段階だけでなく、聞く段階から論理構成を意識してみると、記事の質がさらに一段階上がるかもしれません。