カスタマーインサイトとは

顧客インサイトとは?マーケティングに活かす方法

カスタマーインサイトとは

はじめに

マーケティングの学習をしていると、ニーズと一緒に頻出する専門用語、「インサイト」。ニーズは理解していても、インサイトに関してはうまく言葉で説明できない人が多いようです。特にマーケティング担当者であれば必ず知っておくべき重要な概念「インサイト」の基礎知識を具体的な活用事例とともに解説します。

インサイトの意味とは

インサイトとは、英語の“insight”に由来するマーケティング用語です。直訳すると「洞察」や「物事を見抜く力」といった意味ですが、マーケティングでは商品やサービスをなぜ顧客が購入したのか、その決め手になった本音部分の購買欲求を指します。

たとえばコンビニエンスストアでおにぎりを購入した場合をイメージしてみましょう。なんとなく手にとったとしても、その裏側にはたとえば次のような欲求が隠されています。

  • 値引きシールが付いていた=他の商品より価格面でメリットを感じた
  • カップみそ汁とセットで買った=バランスよく食べたいという健康志向の表れ
  • たまたま目についた=陳列している場所や照明の効果が販促に効果的だった

こういった本音の部分を顧客インサイトといいます。マーケティング担当者にとっては、顧客が商品を買う仕組みを深く理解するために必須の考え方です。

ニーズとインサイトの違いとは

インサイトとよく混同される概念が、ニーズです。インサイトとニーズを見分けるためには、顧客自身の自覚の有無に着目するとよいでしょう。

マーケティングの考え方では、ニーズは次の2種類に分けることができます。

  • 顕在ニーズ:明らかに自覚されている欲求(例:おにぎりが食べたい)
  • 潜在ニーズ:顕在ニーズの裏側の欲求(例:お腹が空いている)

これらのニーズと比べると、顧客インサイトは潜在ニーズのさらに深い部分にある本質的な欲求であり、顧客本人も意識できていない本音を表します。インサイトを知るためには、「お腹が空いている」という潜在ニーズをふまえつつ、「他の食料品もあるのになぜそのおにぎりを選んだのか」「他のおにぎりもあるのに、なぜその種類を手にとったのか」などさまざまな問いでニーズを深堀りし、その答えを類推していく必要があります。

インサイトの見つけ方とは

インサイトは、顧客自身も意識していない領域にある欲求のため、直接ヒアリングしても正確な答えが返ってきません。そのため、顧客の言葉の選び方や仕草、行動パターンなど、さまざまな情報をもとに見抜かなくてはなりません。

インサイトを知る手がかりとしては、次のような調査法が一般的です。

  • アンケート調査
  • インタビュー
  • 行動観察
  • ソーシャルリスニング
  • コラージュエクササイズ
  • 文章完成法

もちろん、これらの調査からはインサイトが分かるわけではありません。さまざまな角度からデータを分析し、マーケッターが洞察を加える必要があります。

インサイトの中身自体は、ありふれた欲求であることがほとんどです。しかし、たとえば自社店舗に来るお客様のインサイトが「商品の質がよいから」なのか「アクセスがよいから」なのかによって、展開すべきマーケティング施策は異なります。したがって、マーケティング担当者は常に顧客のインサイトを意識して探るべきなのです。

インサイトの定義の5つのステップ

インサイトの定義によく用いられるのが次の5つのステップです。

  • ストーリーの設定
  • ギャップの想定
  • 「なぜ」の明確化
  • モチベーションの把握
  • 顧客のソリューションの定義

実際に顧客のインサイトを洞察する場合、これらのステップのうち、1つだけを採用するのではなく、複数の視点を組み合わせることがほとんどです。現場で使いこなせるように、それぞれの内容をくわしく見ていきましょう。

ストーリーを設定する

インサイトを知るためのステップの一つが、顧客ストーリーです。特に印象的な顧客の事例を取り上げ、次の4項目についてくわしく調査し、言語化してみましょう。

  • どんな顧客が
  • どういう状況で
  • 自社の商品・サービスをどう使い
  • プロセスと結果でどんな価値が得たのか

このストーリー作りの際に注意したいのが、今までの固定概念をいったん取り外すことです。そうすると、今までになかったインサイトが少しずつ浮き彫りになってきます。

最も有名な事例は、1990年代初頭にアメリカ・カリフォルニア州の牛乳加工業者が行った「Got milk?キャンペーン」でしょう。牛乳の栄養価をPRし続けて思うような効果がでなかったため、あらためて顧客をリサーチしたところ、顧客が牛乳を買う理由は「牛乳と一緒にチョコレートやクッキーを食べたいから」だと判明したのです。このインサイトに基づき、お菓子業者などとコラボして打った広告は絶大な効果を収め、1億ドル以上の売上増になりました。

ギャップを想定する

インサイトを知るためには、ブランドと顧客との間にあるギャップにも目を向けるとよいでしょう。インサイトは、その商品やサービスに対して“よい”と感じるポジティブな欲求と他の商品やサービスが“不満”というネガティブな欲求とに分かれます。

このアプローチは、自社商品よりも競合他社の商品がよく売れている場合に有効です。たとえばメルセデス・ベンツUSAは自社製品がレクサスよりも売れ行きが悪いことからインサイトを検討し、顧客体験第一主義へと大きく切り替えました。その結果、顧客満足度が大きく向上し、低迷していた売上を再び伸ばすことができたのです。

ネガティブなインサイトは、特に顧客から直接聞くことができない領域の欲求です。そのため、たとえば自社製品を取り巻くトレンドを洗い出し、その中で自社製品に足りないものは何なのか、そのギャップ(差)を手がかりに仮説・検証を重ねるとよいでしょう。

なぜを明確にする

顧客のインサイトを知るためには、「なぜ?」を突き詰めなくてはなりません。トヨタ式のトラブル解決法であるなぜなぜ分析は、インサイトを探る際にも有用です。問いの立て方は「なぜ自社商品(あるいは競合他社の商品)は購入されたのか?」から始めていくとよいでしょう。協力してくれる顧客に問いを繰り返すと、本人も気づいていなかった答えに行き着くケースはよくあります。

また、マーケティング担当者はぜひ自分がなにかの商品・サービスを購入した際に、この「なぜ?」を自分にも何度も問いかけてみることをおすすめします。そうするうちに、自分の購買欲求を理解出来、インサイトの仕組みを体感できます。

モチベーションを把握する

モチベーションとは、「人間の行動を喚起し、方向づけ、統合する内的要因」を示す心理学の用語です。このモチベーションの仕組みを理解すると、インサイトが把握しやすくなります。

モチベーションの仕組みを説明する代表的な学説は以下のとおりです。

  • マズローの欲求段階説:人間の欲求は生理学的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求の5段階に分かれており、下層の欲求が満たされると段階が上がる。
  • ハーズバーグの動機付け・衛生理論 (二要因理論):不満足を招く衛生要因をへらすか、満足を招く動機づけ要因の2要因でモチベーションが成り立つ。

これらはアメリカで生まれた学説であり、日本人にはそのまま応用できないという指摘もあります。しかし、たとえば自社の商品は顧客のどの段階の欲求を満たすのか、など思考を深めていくとインサイトを知るヒントにつながります。

消費者のソリューションを定義する

顧客は、何らかの問題を解決したくて商品・サービスを購入します。したがって、顧客にとってのソリューションを定義し直すと、インサイトの定義もしやすくなります。

たとえば、コンビニエンスストアは顧客にどんなソリューションを提供しているかを考えてみましょう。たとえば以下のような答えが思い浮かぶかもしれません。

  • 生活に必要な物がほぼ揃うから、時間や労力コストを削減できる。
  • 夜中でも買いに行けるから、夜型のライフスタイルの人でも安心。
  • いつでも明るくて人がいるから、寂しさを解消できる。

「あなたのコンビニ、ファミリーマート」のキャッチコピーからは、単なる便利さの訴求ではなく、むしろ顧客が求める安心感の演出が読みとれます。実際にご年配の方で一人暮らしをしている人の購買行動に注目すると、必要な物が購入でき、かつ人と交流できる場としてコンビニエンスストアを重宝している傾向がわかります。こういったソリューション視点からインサイトにたどり着くケースも多いでしょう。

インサイトをマーケティングで実践する方法

自社の顧客のインサイトがある程度つかめたら、次はマーケティング戦略の中にうまく組み込んで、集客や売上につなげましょう。この実践段階で着目したいのは

  • カスタマーエクスペリエンス(顧客体験:CX)の視点
  • SNSの活用による商品開発
  • 競合他社との差別化

の3点です。それぞれくわしく説明します。

カスタマーエクスペリエンスの視点で実践する

カスタマーエクスペリエンス(顧客体験:CX)とは、つまり顧客が商品を知り、購入した後のアフターサービスまでの流れで体験している全ての事象を指しています。この一連の流れを可視化してから顧客のインサイトと照らし合わせてみると、サービスの改善点がわかりやすくなります。

たとえば、格安航空会社(LCC)の事例を考えてみましょう。LCCを使う顧客は、大抵の場合、安さや利便性を重視しています。そこで仮に、機内サービスの充実を打ち出しても、ほとんどの顧客には響かないでしょう。実際にJTB総合研究所が2017年に実施した「LCC利用者の意識と行動調査」によると、LCCのサービスは「そもそも期待していないから期待外れもない」という層が約半数です。そのため、LCC各社はむしろレンタカーやホテルの格安手配も合わせて訴求しているケースが多く、「手軽に旅を楽しみたい」という顧客のインサイトに合わせた商品展開をしています。

SNSの活用で商品開発に活用する

顧客のインサイトを知る手段として、最近よく使われているのがSNSです。顧客が思い思いに商品・サービスの感想を発信してくれるため、思わぬ本音を知る手がかりにつながります。特に20~30代向けのBtoC商品やサービスを展開している企業のマーケティング担当者にとっては、SNSは宝の山でしょう。

82.3万人のフォロワーを誇るシャープなど、さまざまな企業が公式アカウントであえて人柄がわかるゆるめの発信を行う理由には、顧客がリプやリツイートでからみやすくなるというメリットがあります。

実際にタカラトミーが発売したツイッターの人気企業アカウント担当者と、マンガ『よつばと!』シリーズに登場する「ダンボー」がコラボしたカプセル入りおもちゃ「企業Twitter×ダンボー 中の人コレクション」やキングジムのボツ商品ツイートから火が付いた「円周率ノート」など、ちょっとしたやりとりがヒット商品の開発につながった事例も多いのです。

インサイトで差別化を図る

似たような機能の類似商品がリリースされると、通常は価格競争に陥りがちになります。しかし、顧客のインサイトを満たす付加価値をつけると、その競争から一気に抜け出せることがあります。

たとえば、食器の自動洗浄機やつけ置き洗い可能な洗剤が主婦層の顧客から高く評価される背景を考えてみましょう。「皿洗いが面倒」という心理の裏側には、家族団らんの時間をみんなが過ごす中で、一人だけ家事をしているのが苦痛というインサイトがあります。だからこそ、たとえば同じ食器洗い洗剤でも「つけ置き洗いが可能」という情報を添えるだけで差別化が図れるのです。

似たような事例では、家事を一人で黙々とするのが楽しくないというインサイトに着目し、家事を楽しく盛り上げてくれるようなボイス機能が搭載された機種がリリースされ、好評を得ています。

インサイト活用で成功した事例

ここまでにもインサイトを活用した事例をいくつか紹介してきましたが、さらにくわしく成功事例を確認していきましょう。

  • アイドルグループAKB48
  • フレッシュネスバーガー
  • ウーバーイーツ
  • 無印良品

これら4つの例は、それぞれインサイト活用がヒットを生み出したケースです。どんなインサイトを商品・サービスに取り入れたのかをイメージしながら、ぜひ自社の戦略の参考にしてください。

会いに行けるアイドルAKB48

専用劇場である「AKB48劇場」を持ち「会いに行けるアイドル」をコンセプトとして日替わりでほぼ毎日公演を行っているAKB48は、これまでのアイドルとは一線を画す存在です。芸能人といえば遠い存在、という固定概念を覆し、メンバーが成長していく過程も全て公開することで熱狂的なファンを作り出しました。

その背景にあるインサイトは、「アイドルを自分たちが育てたい」「もっと身近で応援したい」というファン心理です。そのため、握手会への参加権利を求めて、多くのファンがCDを購入し、CD売上が年々下がっている業界の中でも異例の売上をたたき出しています。

この手法はAKB商法とも呼ばれ、業界関係者からさまざまな意見や批判が寄せられています。しかし、それだけ物議を醸しだすほど効果があったのも事実であり、顧客のインサイトに訴求することで生み出す経済効果の大きさを示した事例といえます。

フレッシュネスバーガーの戦略

フレッシュネスバーガーは、他のハンバーガーショップに比べれば価格帯はやや高めです。それでも顧客から支持される理由は、スターバックスと同様に「サードプレイス(くつろげる第3の場所)を提供する」というコンセプトを徹底しているからだといわれています。

店内は、アーリーアメリカンのイメージで統一し、パテを鉄板で焼いて本格的な仕様で顧客に商品を提供しています。もちろん店名の通り、野菜は新鮮な素材を厳選するなど、ブランドイメージをあえて高級路線に向けています。

この戦略が、これまではハンバーガーを敬遠していた若い女性にヒットしました。「ゆっくりとくつろぎながら、おいしいハンバーガーを食べたい」インサイトにはまったのです。現在ではフレッシュネスバーガーは全国に多店舗展開を行っています。

ウーバーイーツの戦略

コロナ禍の中で脚光を浴びたウーバーイーツには3つの優位性がありました。

  • さまざまな飲食店と組むことで、幅広い商品を展開できる。
  • 顧客がアプリで好きな時に注文でき、しかも追跡で状況も把握できる。
  • 平均30分以内でどんなものでも届けてくれること。

この優位性を実現した背景では、飲食店側の「外出できない顧客に商品をデリバリーしたいが、人を雇いたくない」インサイトや、ドライバー側の「好きなときだけ働いて、小遣い稼ぎをしたい」欲求をうまく活用したことがわかります。

ウーバーイーツが行ったのは、飲食店とドライバー、そして配達先の顧客、それぞれのインサイトを満たすサービスを設計し、そのためのシステムの容易・提供です。その結果、日本でも爆発的なヒットを呼び、対応エリアもどんどん拡大しています。

無印良品の戦略

顧客の声にとことん寄り添った商品展開で人気のブランドが無印良品です。「感じ良いくらし」を顧客に提供するために、ヒアリングやインタビューを何度も行い、生活者の目線での商品開発にこだわっています。

「生活の基本となる本当に必要なモノを、飾ることなく、必要の本質を商品にする」という同社のコンセプト通り、無印良品の商品には無駄がありません。多機能ではなく、華美でもなく、必要な機能だけがシンプルにそろっているからこそ、「無駄なものを持ちたくない」「シンプルに生きたい」という近年のミニマリストや断捨離志向の顧客の心をつかみました。

無印良品が発信するインスタグラムもあえてメッセージを多く入れないデザインを重視しており、現在では企業アカウントでは異例の281.8万人のフォロワーから支持を受けています。

まとめ

顧客のインサイトについて、今回の記事のポイントをまとめると以下の内容が挙げられます。

  • 顧客のインサイトとは、ニーズとは異なり本人も自覚していない本音部分の欲求である。
  • インサイトにはポジティブな欲求とネガティブな欲求があり、インタビューや行動分析からマーケッターが洞察を加える必要がある。
  • インサイトを活用すると、商品開発や改良に役立ち、他者と差別化できたりヒットを生み出しやすくなったりする。

顧客のインサイトは、ニーズに比べると非常に探りづらく、特にマーケティングを学び始めたばかりの人からすると混乱しやすい考え方でしょう。記事中でご紹介した「なぜの深堀り」などを参考に、まずは自分の購買欲求に対する理解を深めると、自社の顧客のインサイトにもアンテナを立てやすくなります。記事内で紹介した成功事例などを読み込みながら、ぜひ自社の戦略に活かしてください。

本原稿は「顧客を増やす方程式」に掲載しています。サイトではファンマーケティングBtoBマーケティング新規顧客の獲得差別化などの記事をラインナップしています。

>サブ丸はスタートアップ企業やニッチャー向き

サブ丸はスタートアップ企業やニッチャー向き

「この価格で本当にオウンドメディができるんですか?」「サブ丸は安価ですね。コンサルが入るのと比較できませんが、一般的な費用の1/4ぐらいじゃないですか」このサービスをローンチする前に相談したマーケティング&コンサルタント会社の担当者から聞いた言葉です。サブ丸はサービス内容と比較して安価かもしれませんが「私たちは値段を売っているのではない。サービスを提供しているのだ」と信念を持って取り組んでいます。

大企業はその企業に応じたマーケティング予算と手法があり、スタートアップ企業や中小企業、あるいはニッチャーには、それぞれに応じたマーケティングや新規開拓の方法があります。企業の成長過程では、取り組みが異なるのは当然ですし、それを構築することが何より重要です。そのお手伝いをするのが私たちの使命です。そして成長すれば、その取り組みコストは回収できるはずです。サブ丸は年間運用で60万円あまりのコストがかかります。そのコストを回収し、さらなる飛躍をめざす企業にご利用いただきたいと考えています。

CTR IMG