顧客戦略

顧客戦略の立案とフレームワークの活用

顧客戦略
顧客戦略は最初に打ち立てる必要がある。

はじめに

書籍などでマーケティングを学ぶ際、必ずといっていいほど目にするのがフレームワークです。どのフレームワークも有用なものばかりですが、マーケティング初心者からすると具体的に使うタイミングが分からないケースも多いでしょう。今回の記事を参考に、ぜひフレームワークの活用法を具体的な戦略立案の流れとセットで覚えましょう。

戦略の基本的な立案方法

企業のマーケティング担当者が顧客戦略を考えて実践していくまでの基本的な流れは、以下の5つのフェーズに分類できます。

  1. 状況の分析
  2. 戦略の立案
  3. 行動計画の策定
  4. 戦術の立案
  5. 行動計画の実行

2と4で述べている戦略と戦術の違いは

戦略:全体の方向性を決める

戦術:戦略を実現するための実務を決める

と認識しておきましょう。それぞれのフェーズによって使うべきフレームワークが異なります。

状況を分析する

顧客戦略を立てるための第一歩は、自社の置かれている状況の分析から始まります。このときに用いる代表的なフレームワークは次の2つです。

  • 3C分析
  • SWOT分析

どちらも非常によく使われる基本的なフレームワークです。この機会にぜひ考え方を押さえておきましょう。

3C分析とは、「Customer(顧客)」「Competitor (競合)」「Company(自社)」の3軸から現状を把握するためのフレームワークです。

  • 顧客:どんな顧客をターゲットにするのか。顧客のニーズやライフスタイルなどを洗い出す。
  • 競合:競合他社はどんなリソースを持ち、どんな事業展開をしているのか。強みと弱みを把握する。
  • 自社:自社はどんなリソースを持ち、どんな強みや弱みがあるのか、現在の事業展開をふくめて総合的に書き出す。

自社や競合の立ち位置を別の視点から分析するためのフレームワークがSWOT分析です。「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」という頭文字の通り、以下の4軸で分析を進めていきます。

  • 強み:自社の内側のリソースやブランド力など、競合に対して優位がある部分を指す。
  • 弱み:競合と比べて、自社が劣っている部分や不足している部分を示す。
  • 機会:事業の追い風になるような社会的なトレンドや時代背景を指す。
  • 脅威:自社にとって逆風になる社会的なトレンドや時代的背景を示す。

この2つのフレームワークを組み合わせることで、自社の状況を可視化でき、この先の戦略立案フェーズの前提となる情報をマーケティングチーム全体で共有しやすくなります。

戦略を立案する

今後の施策の具体的な方向性を決めるフェーズでは、先述したSWOT分析をベースにしたTOWS分析が非常に役立ちます。SWOTのうち内部要因である「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」と外部要因の「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」」をかけ合わせると、次の4パターンの戦略を検討できます。

  • S×O戦略:自社の強みを活かしつつ、追い風となる機会を拡大・持続する戦略を立てる。
  • S×T戦略:自社の強みを活かしながら、逆風となる脅威に対策するための戦略を考える。
  • W×O戦略:自社の弱みを補い、追い風となる機会を活用するための戦略を考える。
  • W×T戦略:自社の弱みであり外部の脅威によるダメージを抑える戦略を考える。

たとえば、コロナ禍のなかで売上が落ちた(脅威)飲食店が自社のブランド力(強み)を活かしてEC事業を展開した場合は、S×T戦略を実施したと考えられます。同じ状況でもし売上が落ちた店舗を閉店するという判断を下すなら、W×T戦略に該当するでしょう。

行動計画を策定する

全体の方針が決まったら、戦略を具体的な行動計画に落とし込むフェーズに移ります。このときの計画が絵に描いた餅にならないように、プランニングの前には社内のリソース状況を細かく可視化しておくとよいでしょう。そこで活用したいフレームワークが、7S分析です。

7S分析はハード面の状況を表す「Strategy(戦略)」「System(システム)」「Structure(組織)」とソフト面のリソースを示す「Stuff(人材)」「Skill(スキル)」「Style(スタイル)」「Shared Value(価値観)」に分かれます。

この中で特にマーケティング担当者が考慮すべきなのは、ソフト面の4Sです。

  • 人材:採用と育成
  • スキル:戦略の遂行に必要なスキル
  • スタイル:トップの経営方針と従業員の行動や考え方のパターン
  • 価値観:社内で共有している価値観

これらのリソースは、いずれも急に変化しないものばかりです。だからこそ、自社内の4Sの内容を洗い出し、どの商品やサービスに力を注げば効率的なのかを考慮して、行動計画を立てていくとよいでしょう。

戦術を立案する

社内のリソース状況が明確になったら、いよいよ具体的な戦術を打ち立てていきます。ここで必ず意識しておきたいフレームワークがカスタマージャーニーマップです。

カスタマージャーニーマップとは、顧客が自社の商品やサービスを知り、最終的に購入に至るまでの一連の行動をわかりやすくまとめたものです。このマップを作るためには、顧客のライフスタイルや思考・行動のパターンをくわしく把握しておく必要があります。

顧客が購入に至るまでの心理状態の変化は、AISASというフレームワークで表されます。

  1. Attention(注意):まず商品やサービスの存在を知る。
  2. Interest(関心):興味や関心を抱く。
  3. Search(検索):商品やサービスの内容をくわしく知るためにネットなどで調べる。
  4. Action(購買):実際に購入してみる。
  5. Share(情報共有):自分の体験をSNSなどでシェアする。

1から5の流れはそのままカスタマージャーニーマップに適用できます。たとえば1や2の段階で、想定している顧客がよく見るメディアが分かれば、その媒体に広告を打つ戦術が効果的に使えます。

実行計画を実行する

戦術が組み上がったら、あとは実行するのみです。ここまでの流れはあくまでも仮説に過ぎないため、実行後の反応を見てPDCAを回していきます。

PDCAとは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」の頭文字のことです。プロジェクトを管理し、改善するためのフレームワークとして広く使われています。

Check(評価)のフェーズで特に意識しておきたいのが、課題の本質をきちんと深堀りした上で具体的な改善策を考えることです。そうしなければ、PDCAサイクルは期待するほどの効果を生みません。

課題の深堀りには、トヨタの生産方式で使われるフレームワーク「なぜなぜ5回」を用いるとよいでしょう。問題と思われる箇所に対して「なぜその点が問題なのか」を5回繰り返すことで、自然と課題の本質へとたどり着くことができます。なぜなぜ5回を行う場合、他責思考で取り組むと責任の押し付け合いに発展するリスクがあるため「課題を改善していく」という目的意識をマーケティングチーム全体で共有して実施します。

顧客戦略の種類とは

マーケティングのフレームワークは、顧客戦略の各フェーズにおいて関係者全員で情報を正確に共有し、認識をすり合わせて施策の効果を高める目的で使われます。また、外部のメンバーに戦略や戦術の前提条件をわかりやすく説明する際にも有効です。しかしそもそも、顧客戦略とはどんな種類があるのでしょうか?あらためて戦略の内容を確認していきましょう。

コミュニケーション戦略とは

コミュニケーション戦略とは、自社の商品・サービスの情報を顧客にどう伝えれば効果的かつ効率的かを検討し、実行するための考え方です。先述したカスタマージャーニーマップと通じる部分が多く、顧客への理解度が問われます。

顧客に対するコミュニケーションの手段は大きく分けて「広告」「販売促進」「人的販売」「パブリシティ」「口コミ」の5つです。これらの手段を組み合わせて、より顧客に響くメッセージの発信が求められます。

近年では企業側からの発信よりも顧客間で生じる「口コミ」の効果が優れている点が注目されており、その一環としてSNSのインフルエンサーを活用したインフルエンサーマーケティングを実施する企業が増えています。

そのほか、顧客が勝手に口コミを起こしたくなる仕掛けとして、インスタ映えするスポットを店舗内に用意したり、特定のハッシュタグを付けて拡散するとプレゼントが当たる企画を行ったり、とさまざまな工夫が行われています。

ロイヤルティ戦略とは

競合他社に負けないようにするための戦略として、顧客のロイヤルティを高める手法も近年のマーケティングでは重視されています。ロイヤルティが高い顧客が多いと、競合他社との価格競争から抜け出し、購入リピート率の向上が期待できます。合わせて、集客コストも軽減できます。

顧客ロイヤルティを向上させるためには、顧客の声を分析し、その顧客の体験価値を高めていく施策が不可欠です。具体的には、購入前の商品イメージの打ち出し方や購入時の体験、そしてアフターフォローまで一連の流れを見直し、顧客が感じる不満を補いながら、強みを強化する方法を用います。

大手企業がよく時間やお金のコストをかけてまで市場調査を実施する理由の一つが、この戦略立案の土台となる顧客体験の洗い出しです。そこまでコストをかけられない中小企業であれば、たとえば顧客から寄せられる問い合わせやクレームのメ-ルや電話の内容分析やSNSでの口コミ調査から始めるとよいでしょう。すでにロイヤルティが高いと思われる顧客に「なぜ自社を選んでくれたのか」という質問を投げかけるのも有効です。

共感戦略とは

Twitterやインスタグラムなど、さまざまなSNSのインフルエンサーは「共感が大事」だといいます。この共感を生み出すメッセージを作る戦略が共感戦略です。

たとえば「共感SNS」の著者であり、10~20代の若者に圧倒的な支持を受けているインフルエンサーゆうこす氏はSNSで共感を生むコミュニケーション」について著書にて次のようなポイントを述べています。

  1. どんな人に共感してもらいたいかを明確にする
  2. 言いたいけど言えないことを発信する
  3. 人に広めたくなるような有益な情報を発信する
  4. ストーリー性がある
  5. フォロワーのために発信するのではなく、フォロワーの立場になって考える

この中で特に留意したいのが、「フォロワーの立場になって考える」という点です。共感戦略を立案するマーケティング担当者はつい、自分の価値観や経験を基準にしてしまいがちです。しかし、そうすると共感の押し付けになってしまう可能性があります。共感戦略を打ち立てるのであれば、まず顧客の声と向き合うところから始めましょう。

小売戦略とは

リアル店舗を構えてB to Cの事業を展開している場合、小売戦略はぜひチェックしておきましょう。顧客戦略で考えるべき軸は次の6つです。

  • 商品:顧客に提供できる価値をいかに高めるか。
  • 価格:大別して、薄利多売型なのか厚利少売型なのか。
  • 立地:立地のアクセスの便利さと賃料のバランスを検討する。
  • 店内プロモーション:顧客の集客を行い、購買意欲を高めるための企画を打ち出す。
  • 顧客サービス:顧客が抱えている悩みを解決するためのサービスを考える。
  • 店舗雰囲気:ブランドイメージと合わせてインテリアや配色を統一する。

たとえば悪条件の立地でも、他の店にはない独自性を演出することでコアなファンを作り、単価が高めでも集客に成功している店舗は多数あります。「その店にしかない魅力」を作ることができれば、あとは顧客へと拡散するだけです。したがって、特に新規顧客の集客のためには、コミュニケーション戦略や共感戦略も組み合わせていくべきでしょう。

戦略マップの作成

戦略は一度作れば終わりではなく、実施していく中で何度も修正と改善を繰り返していくものです。そのため、関係者全員がその進捗や成果を把握するために戦略マップを作成しておくとよいでしょう。

戦略マップとは、取り組むべき課題や解決策を整理し、KPIやKGIなど成果を評価するための指標も盛り込んで、企業の戦略全体を体系的に可視化したものです。

作成方法は以下の手順で行います。

  1. 模造紙などの紙面に線を引いて4等分する。
  2. 1番上の段に「財務の視点」で洗い出した戦術を記入する。
  3. 2段目に「顧客の視点」からの戦術項目を記入する。
  4. 3段目には「内部プロセスの視点」、そして4段目に「学習と成長の視点」からの戦術を記入する。
  5. それぞれの戦術を矢印線でつなぎ、シナリオを明確にする。

戦略マップは、スタッフに対する評価制度とも連動できるため、効率的な人事への貢献も期待できます。また同時進行で進められている戦略の状況を把握しやすくなるため、特に管理職クラス以上のメンバーの意思統一にも役立ちます。

コンテンツマーケティング戦略とは

インターネットの普及により、顧客は企業からのメッセージを受け取るだけではなく、自分から積極的に情報を検索するようになりました。そのような消費者行動の変化を受けて、コンテンツマーケティングを行う企業が増加しています。

コンテンツマーケティングとは、オウンドメディアやメールマガジン、SNSなどを通じて良質なコンテンツを顧客に提供し、長期的にブランドの価値を高めながら、購入につなげていく施策です。

コンテンツマーケティングは通常、効果が出るまでにある程度の時間がかかります。しかし、成長したメディアはそのまま自社の資産となり、見込み客やファンの増加やエンゲージメントの獲得、そして最終的には売上アップへの貢献も期待できます。無印良品のインスタグラムやサイボウズのオウンドメディア「サイボウズ式」などが好例でしょう。コンテンツマーケティングを行う場合も、顧客がどんなメディアを見る機会が多いのか、など顧客体験の分析が欠かせません。

まとめ

今回の記事の内容をまとめると、戦略立案の際に活用できるフレームワークや顧客戦略については次のような内容が分かりました。

  • 戦略立案の各フェーズで効果的なフレームワークがあり、自社と競合、顧客についてさまざまな観点から分析できるツールである。
  • フレームワークを使うと、情報の整理だけではなく、その内容を他者に共有するときにも内容がわかりやすくなる。
  • 顧客戦略はさまざまな種類があり、基本的には組み合わせて実施する。戦略マップを作成しながらシナリオを考えると効率的である。

今回ご紹介したフレームワークは、マーケティングで頻出のものばかりです。ぜひ顧客戦略の種類や立案方法と合わせて、基本の振り返りとして今回の記事を役立ててください。

本原稿は「顧客を増やす方程式」に掲載しています。サイトではファンマーケティングBtoBマーケティング新規顧客の獲得差別化などの記事をラインナップしています。

>サブ丸はスタートアップ企業やニッチャー向き

サブ丸はスタートアップ企業やニッチャー向き

「この価格で本当にオウンドメディができるんですか?」「サブ丸は安価ですね。コンサルが入るのと比較できませんが、一般的な費用の1/4ぐらいじゃないですか」このサービスをローンチする前に相談したマーケティング&コンサルタント会社の担当者から聞いた言葉です。サブ丸はサービス内容と比較して安価かもしれませんが「私たちは値段を売っているのではない。サービスを提供しているのだ」と信念を持って取り組んでいます。

大企業はその企業に応じたマーケティング予算と手法があり、スタートアップ企業や中小企業、あるいはニッチャーには、それぞれに応じたマーケティングや新規開拓の方法があります。企業の成長過程では、取り組みが異なるのは当然ですし、それを構築することが何より重要です。そのお手伝いをするのが私たちの使命です。そして成長すれば、その取り組みコストは回収できるはずです。サブ丸は年間運用で60万円あまりのコストがかかります。そのコストを回収し、さらなる飛躍をめざす企業にご利用いただきたいと考えています。

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