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スターバックスはなぜ戦略を変え続けるのか|顧客共創から2026年の原点回帰までを読み解く

スターバックスは、なぜ長年にわたって顧客との関係づくりを重視してきたのでしょうか。その答えを探ると、単なるSNS運用や会員制度だけでは説明できない、ブランド戦略の変化が見えてきます。

2008年、スターバックスは顧客が商品やサービスについて提案できる「My Starbucks Idea」を開始しました。企業が顧客の意見を集め、商品開発や店舗改善に生かす、当時としては先進的な取り組みでした。

その後、スマートフォンやSNSの普及に伴い、顧客との接点は公式アプリ、モバイル決済、リワード、デジタルギフトなどへ広がっていきます。そして2024年からは、「Back to Starbucks」という経営改革を通じて、店舗での接客や居心地、バリスタとの交流を再び重視する姿勢を鮮明にしています。

こうした変化を振り返ると、一つの特徴が浮かび上がります。

スターバックスは、顧客とのつながりを大切にするという基本思想を維持しながら、時代に合わせて、その関係を築く方法を変えてきたのです。

本記事では、My Starbucks Ideaから2026年の最新戦略まで、公式情報や当時の運営関係者の証言をもとに、その変化を外部の視点から分析します。成功事例だけでなく、施策の限界や経営改革の背景も含め、企業が顧客との関係を築くためのヒントを考えます。

目次

スターバックスの顧客戦略はどう進化してきたのか

スターバックスの歴史を振り返ると、顧客とブランドの関係は、時代によって異なる形で育まれてきました。

もともと同社が大切にしてきたのは、コーヒーを販売するだけでなく、家庭でも職場でもない「サードプレイス(第三の居場所)」を提供するという考え方です。

その思想を土台として、顧客の声を商品開発に反映する仕組み、デジタル技術によって日常の利便性を高める仕組み、来店体験そのものを充実させる取り組みが発展してきました。

時期主な取り組み顧客戦略の特徴
2008年〜My Starbucks Idea顧客の提案を集め、商品・サービス改善に生かす
2010年代SNS、モバイル決済、リワード顧客との接点を日常的なデジタル体験へ広げる
2020年代前半公式アプリ、eGift、店舗体験の充実購入・共有・再来店につながる多様な接点を整える
2024年〜Back to Starbucks店舗での接客、コーヒーの品質、居心地を再重視する
2026年リワード刷新、店舗改装、新店舗デザインデジタルの利便性と、人を中心とした店舗体験を再構築する

ただし、これは古い戦略を完全に廃止して新しい戦略に置き換えてきたという意味ではありません。複数の取り組みが並行して発展し、ときには重点の見直しが行われています。

また、「顧客共創」と「顧客との関係づくり」は、厳密には同じものではありません。顧客が商品開発に参加することもあれば、店舗での体験を楽しんだり、誰かにギフトを贈ったりすることもあります。

こうした違いを踏まえて、まずは顧客参加型の取り組みとして知られるMy Starbucks Ideaから見ていきましょう。

My Starbucks Ideaとは?2008年に始まった顧客共創の仕組み

急成長によって生まれた顧客との距離を縮める

2008年は、ハワード・シュルツ氏がスターバックスのCEOに復帰した年です。

スターバックスは店舗網を急速に拡大していましたが、規模が大きくなるにつれ、顧客との距離をどのように保つかが課題になっていました。

スタンフォード大学が2018年9月26日に公開したMy Starbucks Ideaの運営経験を紹介する記事によると、2007年末時点でスターバックスの世界の店舗数は15,000店を超えていました。

当時の運営責任者Matthew Guiste氏は、店舗数が少なかった頃には顧客のニーズを理解しやすかったものの、事業規模の拡大によって状況が変化したことを説明しています。

そこで導入されたのが、顧客と企業が直接意見を交換するためのプラットフォーム「My Starbucks Idea」でした。

興味深いのは、サービス開始当初、スターバックスには現在のようなSNSでの発信体制がなかったことです。Guiste氏によると、ブログや主要SNSの公式アカウントもない状態から始まりました。

それでも顧客は参加し始めました。同氏は、その背景としてスターバックスのブランド力と、参加方法の分かりやすさを挙げています。

投稿、投票、社内検討、結果共有という仕組み

My Starbucks Ideaでは、顧客が商品やサービス、店舗での体験に関するアイデアを投稿できました。

参加者はほかの人の提案を閲覧し、支持するアイデアに投票することができました。また、コメントを通じて意見交換する機能も設けられていました。

その仕組みを整理すると、次のようになります。

  1. アイデアを投稿する:顧客が新商品やサービス改善について提案する。
  2. 参加者が投票・議論する:ほかの顧客が関心や支持を示し、意見を交換する。
  3. 社内で検討する:担当部門が実現可能性、ブランドとの適合性、顧客の関心などを評価する。
  4. 結果を共有する:実現したアイデアや採用できなかった理由を、可能な範囲で説明する。

重要なのは、投票数が多いアイデアを機械的に採用する仕組みではなかったことです。

スターバックスは、顧客から寄せられた意見を社内で検討し、商品やサービスとして実現できるかどうかを判断していました。

また、当初は通常のコメント機能で企業側の回答を伝えていましたが、利用者に届きにくかったため、専用ブログを設けてフィードバックを分かりやすくする改善も行っています。

顧客の意見を集めるだけでなく、その声をどう扱ったのかを伝える。この双方向性が、My Starbucks Ideaの特徴でした。

2013年までに15万件以上の提案、277件を実現

スタンフォード大学の前述の記事によると、スターバックスはサービス開始から5年間で15万件以上の提案を受け付け、2013年時点で277件を実現したと報告しています。

この数値は2013年時点の累計実績であり、サービス終了時点の最終実績ではありません。

また、277件という実現数は、顧客の意見を取り入れる難しさも示しています。

企業はすべての提案を採用できるわけではありません。実現可能性、費用、品質、安全性、既存商品の販売状況などを考慮する必要があります。

My Starbucks Ideaから学べるのは、提案数を増やすことだけでなく、集まった声をどのように評価し、事業改善につなげるかという点です。

My Starbucks Ideaから生まれた3つの実例

顧客から寄せられた提案は、具体的な商品やサービスの改善にもつながりました。

ここでは、スタンフォード大学が記録した当時の運営責任者の証言で言及されている3つの実例を紹介します。

事例1:ケーキポップス|小さな食のニーズを商品開発に生かす

ケーキポップスは、棒付きの小さなケーキです。My Starbucks Ideaを通じた顧客参加が商品開発につながった実例として紹介されています。

カフェを利用する顧客が求めるのは、必ずしも大きなデザートだけではありません。飲み物と一緒に少量のスイーツを楽しみたい、手軽に食べたいという需要もあります。

この事例から学べるのは、顧客が商品をどのような場面で利用するのかに注目する重要性です。

商品開発では、「何が欲しいか」だけでなく、「いつ、どこで、どのように楽しみたいか」を聞くことで、顧客のニーズを具体的に理解できます。

事例2:モバイル決済|繰り返される小さな不便を減らす

モバイル決済も、My Starbucks Ideaを通じて実現した取り組みの一例として挙げられています。

財布やカードを取り出して支払う手間は、一度の買い物では小さく感じられるかもしれません。しかし、頻繁に店舗を利用する顧客にとっては、繰り返される不便です。

こうした手間を減らすことは、購入時の利便性を高めるだけでなく、継続して利用しやすい環境づくりにもつながります。

ただし、現在のスターバックス公式アプリやモバイル決済システムのすべてが、My Starbucks Ideaだけをきっかけに生まれたわけではありません。

顧客からの提案と、その後の技術開発や企業のデジタル戦略は区別して考える必要があります。

事例3:スプラッシュスティック|持ち帰り時の不満を改善

スプラッシュスティックは、テイクアウト用カップの飲み口に差し込み、飲み物がこぼれるのを抑えるための小さな部品です。

これもMy Starbucks Ideaに関連する実現例として紹介されています。

華やかな新商品ではありませんが、飲み物を持ち帰る際の不便を解消することは、顧客にとって実感しやすい改善です。

企業が顧客の意見を集めるとき、新規性の高いアイデアに注目しがちです。しかし、実際の満足度を左右するのは、利用時に感じる小さなストレスであることも少なくありません。

こうした問題を見つけるには、顧客の行動や不満の背景にあるインサイトを理解することが重要です。

成功したアイデアだけを見てはいけない

My Starbucks Ideaでは、採用されなかった提案からも重要な学びが得られました。

例えば、コーヒー味の氷を提供してほしいという提案が多くの支持を集めたことがありました。しかし、当時の店舗には必要な冷凍設備がなく、実現は困難だったといいます。

スターバックスは、こうした判断の理由を顧客に伝えることを重視していました。

また、あるコーヒー商品について、プラットフォーム上で否定的な意見が多く集まったこともありました。しかし、販売実績を見ると、その商品は店舗でよく売れていたため、販売を継続しました。

ここから分かるのは、顧客の声を尊重することと、顧客の声だけで経営判断をすることは異なるという点です。

積極的に意見を発信する顧客が、必ずしも顧客全体を代表しているとは限りません。

顧客参加型の取り組みでは、寄せられた声と購買データ、現場の情報などを組み合わせることが必要です。

2010年代|専用サイトから日常的なデジタル接点へ

My Starbucks Ideaが始まった2008年当時と比べ、2010年代には顧客を取り巻くデジタル環境が大きく変化しました。

スマートフォンが普及し、SNSが日常的な情報交換の場となり、アプリによる購入や決済も広がっていきました。

スターバックスも、こうした環境の変化に対応してデジタル領域への取り組みを進めています。

My Starbucks Ideaは終了したが、顧客との接点は広がった

My Starbucks Ideaの専用プラットフォームは、2018年頃までに終了しています。

ただし、その終了理由について、スターバックスがSNSの普及や運営費用を直接の原因として公表したことは確認できません。

そのため、My Starbucks Ideaの終了を「SNSへの移行によるもの」と断定することは適切ではありません。

一方、スターバックスがデジタル接点を拡大していたことは、公式の経営資料から確認できます。

例えば、2018年6月19日の公式発表では、デジタルを活用した顧客との関係強化を重要施策の一つに挙げています。

同発表によると、2018年当時、米国のスターバックス リワードのアクティブ会員数は前年同期比13%増の1,500万人となっていました。

この数字は2018年時点の米国における実績であり、現在の会員数ではありません。

この時期の変化を外部から見ると、顧客との接点が、意見を集める専用サイトだけでなく、購入、決済、会員サービスなど、日常的な行動の中へ広がっていったことが分かります。

顧客による体験共有がブランドの情報発信を広げる

スターバックスの季節限定商品やカスタマイズは、SNS上でも話題になりやすい題材です。

新しいフラペチーノの写真、おすすめのカスタマイズ、店舗の雰囲気など、利用者が自分の体験を共有することで、企業が直接発信する広告とは異なる情報の広がりが生まれます。

こうした利用者による投稿は、UGC(ユーザー生成コンテンツ)と呼ばれます。

ただし、顧客による自発的な投稿と、企業が実施する公式キャンペーンは区別する必要があります。

また、SNSへの投稿が多いからといって、それだけで売上や顧客ロイヤルティの向上が証明されるわけではありません。

スターバックスのSNS活用を参考にする場合も、投稿数やフォロワー数だけでなく、店舗利用や継続購入との関係を考えることが重要です。

2020年代|顧客との関係は「参加」から「日常の体験」にも広がる

デジタルサービスが発展するなかで、スターバックスと顧客との関係も多様化してきました。

顧客が企業へ直接アイデアを提案するだけでなく、商品を贈る、会員特典を楽しむ、訪れた店舗の記録を残すなど、さまざまな行動の中でブランドと関われるようになっています。

事例4:Starbucks eGift|人と人との関係の中にブランドが登場する

日本のStarbucks eGiftは、デジタルチケットをメッセージとともに贈れるサービスです。

誕生日やお礼など、日常のさまざまな場面で利用でき、LINEやチャット、メールなどを通じてギフトを送ることができます。

興味深いのは、商品を購入する顧客自身が、ほかの人へブランド体験を届ける役割を果たしている点です。

企業が広告を通じて新しい顧客へ直接働きかけるのではなく、知人同士の自然なコミュニケーションの中で、スターバックスを利用するきっかけが生まれます。

もちろん、eGiftによってどの程度の新規顧客獲得や再来店が生まれているかについて、公開資料だけで具体的な効果を断定することはできません。

それでも、顧客が自分のために購入するだけでなく、他者との関係を深めるためにブランドを利用できる仕組みとして参考になります。

事例5:日本のリワードとストアパスポート|来店体験を積み重ねる

日本のスターバックス リワードは、対象となる買い物でStarをため、チケットや特典などと交換できるロイヤルティプログラムです。

さらに、ストアパスポートでは、訪れた店舗ごとのデジタルスタンプや、条件を満たすことで獲得できるメダルを集められます。

2026年6月17日には、従来の「マイストアパスポート」から「ストアパスポート」へ名称が変更されました。

通常のポイント制度は、購入金額や利用回数などをもとに特典を提供します。一方、ストアパスポートは「どの店舗を訪れたか」という体験を記録する特徴を持っています。

旅行先で訪れた店舗や、いつも利用する店舗など、一人ひとりの利用体験が記録として残る点が興味深いところです。

これは顧客が商品開発に参加する仕組みではありません。しかし、ブランドとの関係を自分なりに楽しむ機会をつくるという点で、顧客との継続的な関係づくりにつながる施策といえます。

2024年からの転換|Back to Starbucksが示す原点回帰

スターバックスの顧客戦略を2026年時点で考えるうえで、特に重要なのが「Back to Starbucks」です。

2024年9月、ブライアン・ニコル氏がCEOに就任し、ブランドが本来持っていた価値を取り戻すための経営改革を打ち出しました。

その中心にあるのは、店舗での顧客体験です。

デジタルの利便性だけでは、ブランドの価値を説明できない

スマートフォンによる注文や決済は、顧客にとって便利な仕組みです。

一方、スターバックスの価値は、注文が早く済むことだけで成り立っているわけではありません。

店舗でバリスタと会話すること、居心地のよい空間で過ごすこと、丁寧につくられたコーヒーを楽しむことも、ブランド体験の重要な要素です。

2026年9月10日に公表されたニコルCEOのメッセージでは、Back to Starbucksによる2年間の進捗が説明されています。

同氏は、店舗の温かみ、サービスの一貫性、従業員への支援、顧客が来店したくなる理由の再構築などに取り組んできたと述べています。

これは、デジタルサービスを否定する方針ではありません。

むしろ、デジタル技術による便利さを維持しながら、店舗に足を運ぶ意味を改めて高めようとする動きと捉えることができます。

事例6:手書きメッセージや陶器マグの復活

Back to Starbucksでは、これまでの効率化の中で失われかけていた店舗体験を見直す取り組みが行われています。

2026年9月の公式発表では、カップへの手書きメッセージ、店内用の陶器マグ、調味料コーナーなどを復活させたことが紹介されています。

こうした要素は、一つひとつを見ると大きな設備投資を伴う施策ではないかもしれません。

しかし、顧客が店舗で感じる親しみやすさや、自分のためにサービスが提供されているという感覚に関わります。

ここには、My Starbucks Ideaとは異なる形の顧客との関係づくりがあります。

かつてはオンライン上で顧客の意見を集め、商品やサービスに反映することが重視されました。

現在のBack to Starbucksでは、店舗での接客や空間を通じて、顧客がブランドとのつながりを実感できるようにすることが重視されています。

ただし、両者が同じ施策であるというわけではありません。顧客との関係を築くための手段が異なっている点に注目する必要があります。

Green Apron Service|効率と人間的な接客の両立

Back to Starbucksのもう一つの柱が、店舗でのサービス改善です。

スターバックスは「Green Apron Service」を展開し、従業員の配置、業務の進め方、注文処理などを見直しています。

2026年9月の公式発表では、スタッフ配置の改善やSmart Queueなどの導入によって、店舗、ドライブスルー、モバイルオーダー、デリバリーでのサービスの一貫性とスピード向上を目指していることが説明されています。

ここで重要なのは、業務効率化と顧客との交流を対立するものとして捉えていないことです。

注文処理や業務の流れを改善することによって、従業員がよりよい接客を行える環境を整えようとしていると考えられます。

これは、デジタル技術を使って人の役割をなくすのではなく、人が担うサービスの価値を高めるために活用するという視点にもつながります。

2026年の最新事例|デジタルとリアルを同時に再構築

Back to Starbucksの特徴は、店舗への原点回帰だけでなく、デジタル領域でも顧客体験の見直しを進めている点です。

2026年には、米国のリワード刷新や大規模な店舗改装、新しい店舗デザインの発表など、複数の施策が進展しました。

事例7:米国リワード刷新|顧客の声をもとに会員体験を再設計

2026年3月10日、スターバックスは米国で新しいリワードプログラムを開始しました。

スターバックス公式の2026年3月10日付発表によると、Green、Gold、Reserveという3段階の会員制度が導入されています。

会員の利用状況に応じて、Starの獲得条件や特典、特別な体験などを変える仕組みです。

注目したいのは、スターバックスが、この刷新を会員からの意見を踏まえたものと説明している点です。

2026年1月29日の公式発表によると、2025年度の米国直営店舗売上高の約60%がリワード会員によるものでした。金額では130億ドルを超える規模です。

これは米国直営店舗の2025年度実績であり、日本を含む世界全体の数値ではありません。

従来の制度を改善する背景には、会員ごとのニーズに合わせた、より個別性のある体験を提供する狙いがあります。

My Starbucks Ideaが、顧客からアイデアを広く募集する仕組みだったのに対し、今回のリワード刷新では、会員の意見を踏まえて既存サービスの価値を高めています。

どちらも顧客の声を重視していますが、その取り入れ方は異なります。

企業が顧客との関係を築くうえでは、新しいサービスを次々と追加するだけでなく、既存のサービスを顧客の期待に合わせて見直すことも重要なのです。

事例8:1,000店舗以上の改装|居心地のよい店舗を再構築

店舗体験への再投資も、2026年の重要な動きです。

2026年9月23日の公式発表によると、スターバックスは2025年後半以降、米国とカナダで1,000店舗以上の改装・改善を実施しました。

柔らかな座席、照明、観葉植物、アート、地域の特色を取り入れたデザインなどを通じて、顧客が長く滞在しやすく、交流しやすい空間づくりを進めています。

店舗改装は、単に内装を新しくすることではありません。

顧客が店舗でどのような時間を過ごしたいと考えているのかを見直し、その体験に合わせて空間を設計する取り組みです。

また、スターバックスは2026年10月6日、新しい店舗デザインの構想も公表しました。

店舗の立地や広さ、利用者のニーズに応じて柔軟に対応しながら、温かみのある店舗体験を提供することを目指しています。

これは、すべての店舗を同じ形にするのではなく、顧客の利用方法や地域の特徴に合わせて店舗のあり方を考える方向性といえます。

事例9:韓国・広蔵市場のコミュニティストア|地域との共創

顧客との関係づくりを考える際には、個人の顧客だけでなく、地域社会とのつながりにも目を向ける必要があります。

2025年5月、スターバックス韓国はソウルの広蔵市場にコミュニティストアを開設しました。

2025年5月29日の公式発表によれば、この店舗は韓国における10店舗目のコミュニティストアです。

市場の歴史や文化を取り入れた店舗デザインが特徴で、地元アーティストとの協働による壁画や装飾も採用されています。

また、商品1点の販売につき300ウォンを地域活性化の支援に充てる取り組みも発表されています。

この事例は、My Starbucks Ideaのように顧客から商品アイデアを募集する仕組みとは異なります。

地域の文化や歴史を尊重し、関係者と協働することで、店舗そのものが地域の魅力を伝える場となっている点に特徴があります。

企業が地域との関係を築く際には、自社のブランドを一方的に押し出すだけでなく、その土地に根ざした価値を理解することが大切だと分かります。

スターバックスはなぜ戦略を変え続けるのか

ここまで見てきた取り組みを整理すると、スターバックスの戦略には、変化するものと継続しているものがあることが分かります。

My Starbucks Ideaでは、顧客の声を直接集めることが重要でした。

スマートフォンやSNSが普及すると、顧客との接点は商品購入、決済、情報共有、会員サービスなど、日常的な行動の中へ広がりました。

そして2024年以降のBack to Starbucksでは、店舗での交流や接客、コーヒーの品質、居心地のよさといった基本的な価値を改めて重視しています。

これらを、単純に「オンラインからオフラインへ戻った」と理解するのは適切ではありません。

2026年には、店舗体験への再投資と同時に、米国のリワードプログラムも刷新されています。

つまり、デジタル化をやめたのではなく、デジタルとリアル、それぞれが果たす役割を見直しているのです。

成功した施策でも、時代が変われば見直しが必要になる

My Starbucks Ideaは、多くの顧客提案を集め、具体的な商品やサービスの改善に結びつけた取り組みでした。

しかし、一度成功した仕組みが、将来にわたって最適であり続けるとは限りません。

顧客が使うデジタルサービス、生活様式、購買行動、企業に求める価値は変化します。

その変化に対応するためには、過去に成果を上げた施策であっても、現在の顧客に合っているかを見直す必要があります。

大切なのは、過去の施策を否定することではありません。

その施策が実現しようとしていた目的を理解し、新しい環境の中で、より適切な方法を考えることです。

変わらないのは、顧客とのつながりを大切にする姿勢

スターバックスの取り組みを外部から観察すると、顧客との関係を大切にするという方向性には継続性が見られます。

My Starbucks Ideaでは、顧客の声を商品やサービスの改善に取り入れました。

リワードでは、顧客の利用状況や意見を踏まえて、会員体験を見直しています。

Back to Starbucksでは、店舗での接客や居心地など、顧客がブランドとのつながりを感じるための基本的な体験を再構築しています。

それぞれ方法は違いますが、顧客との関係に価値を見いだしている点には共通性があります。

顧客との関係を築くという目的を維持しながら、時代の変化に合わせて方法を変える。

この継続性と柔軟性の両立が、スターバックスの戦略を理解するうえで重要な視点だといえるでしょう。

他の企業がスターバックスから学べる5つの視点

1.顧客の声を聞くだけで終わらせない

My Starbucks Ideaの事例が示しているのは、意見を集めること以上に、集めた声を事業改善に生かすことの重要性です。

アンケートを実施しても、結果を社内で共有しなければ意味がありません。また、集まった意見をどのように扱ったかを顧客へ伝えることも重要です。

採用できなかった提案についても、可能な範囲で理由を説明することが、顧客との信頼関係につながります。

2.顧客の意見と購買データを組み合わせる

熱心なファンの意見は貴重ですが、必ずしも顧客全体の意見を代表しているとは限りません。

利用者へのインタビュー、アンケート、購買データ、問い合わせ内容など、異なる情報を組み合わせて判断する必要があります。

そのためには、顧客インタビューを通じて利用者の本音を引き出す方法も役立ちます。

3.デジタル化と人によるサービスを対立させない

アプリやモバイル決済は、顧客の利便性を高めます。しかし、効率化だけではブランドの価値を十分に伝えられない場合もあります。

Back to Starbucksでは、サービスのスピードや一貫性を高めながら、バリスタと顧客との交流や店舗の居心地も重視しています。

他の企業でも、オンラインで完結させるべき手続きと、人が対応することで価値が高まる場面を整理することが重要です。

顧客体験を総合的に見直す考え方は、その際の参考になります。

4.顧客の体験を継続的にコンテンツとして伝える

顧客との関係づくりには、商品情報やキャンペーン告知だけでなく、利用者の声や実際の体験を伝える情報発信が役立ちます。

例えば、商品改善の背景を紹介する記事、サービスを活用している顧客へのインタビュー、会員や参加者の活動を紹介する記事などです。

こうしたコンテンツは、企業側の説明だけでは伝わりにくい商品の価値や、利用者が感じている魅力を具体的に表現できます。

単に投稿数を増やすのではなく、顧客が知りたいことや、ほかの利用者に伝えたいことを丁寧に取材し、継続して発信することが大切です。

5.成果が出ている施策も定期的に見直す

スターバックスの戦略から得られる重要な教訓は、成功した施策を永久に続けることが正解ではないという点です。

顧客が利用する媒体やサービスが変われば、企業との接点のあり方も変化します。

一方で、新しい技術や媒体が登場したからといって、必ずしもそれを採用する必要はありません。

顧客が何を求めているのか、自社がどのような価値を提供したいのかを確認し、目的に合った方法を選ぶことが重要です。

そのためには、過去の成功事例を再現するだけでなく、現在の顧客の行動や価値観を継続的に理解する姿勢が必要になります。

よくある質問(FAQ)

Q1.My Starbucks Ideaは現在も利用できますか?

いいえ。2008年に始まったMy Starbucks Ideaの専用プラットフォームは、現在は運営されていません。2018年頃までに終了していますが、公式な終了理由は明確に確認できません。その後もスターバックスは、SNS、公式アプリ、リワード、店舗など、異なる接点を通じて顧客との関係づくりを続けています。

Q2.My Starbucks Ideaから生まれた商品やサービスには何がありますか?

スタンフォード大学が2018年に公開した運営責任者の証言では、ケーキポップス、モバイル決済、スプラッシュスティックなどが実現例として紹介されています。また、2013年時点で15万件以上の提案が集まり、277件が実現したと報告されています。

Q3.Back to Starbucksとはどのような戦略ですか?

2024年9月に就任したブライアン・ニコルCEOが打ち出した経営改革です。店舗での接客、コーヒーの品質、居心地のよい空間、従業員の働く環境などを改善し、スターバックスが本来持っていたブランド価値を再び強化することを目指しています。デジタルサービスを廃止するのではなく、店舗体験と利便性の両方を見直している点が特徴です。

Q4.2026年のスターバックス リワードは日本でも3段階になりましたか?

2026年3月10日に導入されたGreen、Gold、Reserveの3段階制度は米国のリワードプログラムです。日本のスターバックス リワードとは制度が異なります。会員特典やStarの獲得条件などは、各国の公式サイトで確認する必要があります。

Q5.中小企業でもスターバックスのような顧客共創はできますか?

可能です。大規模なプラットフォームをつくる必要はありません。購入者アンケート、ユーザーインタビュー、少人数の意見交換会などから始められます。重要なのは、集めた意見を社内で検討し、改善につなげ、その結果を顧客に伝えることです。また、顧客が利用する媒体やサービスの変化に応じて、関係づくりの方法を見直すことも大切です。

まとめ|スターバックスの強さは、戦略を変え続けることにある

スターバックスの顧客戦略を振り返ると、2008年のMy Starbucks Ideaから2026年のBack to Starbucksまで、取り組みの形が大きく変化してきたことが分かります。

My Starbucks Ideaでは、顧客が商品やサービスの改善に参加できる仕組みをつくりました。

その後、SNSやモバイル決済、リワードなどが発展し、顧客との関係は日常的な購買行動や情報共有の場へ広がりました。

そして2024年以降は、Back to Starbucksを通じて店舗での接客や居心地、コーヒーの品質などを再重視しています。2026年には、米国でのリワード刷新や大規模な店舗改装も進められています。

こうした変化は、単なるデジタル化からアナログへの回帰ではありません。

顧客の生活や価値観が変わるなかで、デジタルとリアル、それぞれの役割を見直し、ブランドが提供する価値を再構築する動きだと考えられます。

もちろん、すべての施策が成功していると断定することはできません。現在進行中の取り組みについては、今後の業績や顧客評価を継続して確認する必要があります。

それでも、スターバックスの歴史から得られる教訓は明確です。

企業が守るべきなのは、過去に成功したマーケティング手法そのものではなく、その手法を通じて実現しようとしてきた顧客との関係です。

顧客の声に耳を傾ける。顧客が求める体験を理解する。変化する時代に合わせて、より適切な接点をつくる。

基本となる価値観を大切にしながら、その実現方法を変え続けること。それこそが、スターバックスの共創戦略と進化の歴史から学べる重要な視点ではないでしょうか。

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