はじめに
皆さんは「主語と述語について説明してみて」と言われて、パッと的確に説明できますか? 小学校で習ったはずだけれど、いざ説明してみるとなると案外難しいのではないでしょうか。「だって、そんなことをいちいち考えなくても、読めるし書ける!」と思う人もいるでしょう。しかし、コピーライティングを行う際は、この主語と述語の関係を意識し、うまく操れるかどうかが、品質を大きく左右します。
「文章がうまくまとまらないで困っている」、「君の文章はわかりにくいと言われて悩んでいる」人でも、主語と述語の関係を意識すると、文章のクオリティが格段に向上します。
ここでは、プロのコピーライターが主語と述語の関係とその応用についてわかりやすく解説していきます。
主語・述語は文章の核
まずは、主語と述語とは何かから説明します。
日本語の文章は、大別すると以下の3パターンになります。
「何がどうする」
「何がどんなだ」
「何がなんだ」
これらの「何が」にあたる部分が「主語」です。
そして「どうする」「どんなだ」「なんだ」にあたる部分が「述語」と呼ばれています。
「私は弟と話す。」
上記の文章では、主語は「私」で、述語は「話す」です。
この場合、「弟と」は述語の目的を表す「目的語」になります。
つまり、主語と述語は文章の基本的な構成要素です。主語と述語こそが、その文章の核をなしています。先ほどの「私は弟と話す」ならば「私は話す」が、この文章の核です。
主語・述語の関係が、一目瞭然の文章は読みやすい
小学生のテスト以外で、どれが主語で、どれが述語かを当てるような機会はないでしょう。では、なぜ主語と述語が重要なのか。それは、わかりやすい文章を書くためです。書き手が主語と述語を常に意識することで、人に伝わりやすい文章が書けます。
先ほどから述べているように、主語と述語は、まさにその文章の核になります。
では、次の文章の主語と述語はどれでしょうか?
A社が社運をかけた商品であるファイブスターは、広報部のしかけた新たな広報展開のおかげで、思惑通り、SNSでバズったうえ、購入者の反応も上々であり、前月比40%増の売上を期待している。
主語は、商品名であろう「ファイブスター」であり、述語は「バズった」「上々で」「期待している」となります。スッと理解することが難しく、「期待している」に至っては、主語と述語が呼応していません。まさに悪文の典型でしょう。
「その人が書いた文章を読みたい」とお金を出して購入する小説や書籍なら、このように読みづらい文章でも問題はないかもしれません(主語と述語が呼応している限りにおいて)。しかし、商業コピーや仕事での文章で、このような文章を書くのは完全にNGです。
先ほどの例文を簡単に修正すると、次のようになります。
「ファイブスター」はA社が社運をかけた商品だ。広報部のしかけた新たな広報展開のおかげで、思惑通り、SNSでバズった。また、購入者の反応も上々である。そのため、前月比40%増の売上が期待されている。
細かな改善点はまだありますが、読みやすくはなったはずです。これが、わかりやすい文章を書くテクニックとして、よく言及されている「文章を短く」という一例でしょう。
しかし私は、この「文章を短く」は説明が少し足りないと考えています。「文章を短く」というのは結果に過ぎません。大切なテクニックは「誰が読んでも、主語と述語の関係が一目瞭然の形にする」ということなのです。そのためには、文章は必然的に短くなります。
コピーライティングでは主語や述語の省略を操る
主語と述語は文章の核と言っていますが、実は日本語では、しばしば省略されてしまいます。特に会話では、かなり頻繁に省略されています。
例えば、恋愛ドラマの告白シーンでは、主人公が恋人に「愛してる」と叫ぶシーンがあっても違和感を抱く人はないでしょう。主語も目的語も省略されていますが、視聴者である私たちは、関係性から、主語や目的語を補っているからです。このシーンを英訳すれば、”I love You.”と主語と目的語が補われるはずです(もちろん厳密に言えば、英語でも省略されるケースはあります)。
その他、日常会話でも「ご飯食べた?」「連休は沖縄に行ったよ」など、主語が省略されている例は、そこかしこで聞かれます。あえて補うとすれば「あなたはご飯食べた?」「私は、連休は沖縄に行ったよ」となるでしょう。
プロとしてコピーライティングを行う際は、そのことも常に意識する必要があります。これから2つのポイントを紹介します。
一人称原稿や対談原稿では、主語や述語を適宜補う
日本語の話し言葉では、日常的に主語(または述語)が省略されているということをお伝えしました。これは、取材を行った際、インタビュイーも主語や述語を省略して話すということです。インタビュー中は、「主語は誰か、述語は何か」にも意識を払って聞かなければなりません。
そして肝心なのは、原稿に落とし込む際に、適宜、主語を補うことです。特に一人称原稿や対談原稿では、主語を適宜補うようにしましょう。怠ると、非常にわかりづらい原稿になります。
主語を補う際は、それが正しいかどうかも視野を広く確認していきます。
具体的には「この話者が『我が社』という主語を使っていいのか」、「この場合、『日本人は』という大きな主語を補って問題は起きないか」などを、十分に検討しなければなりません。
また、「私」「僕」「俺」「わし」「わて」など、一人称のバリエーションが豊富にあるのも日本語の特徴です。インタビュイーの特徴や媒体の性質などによって、何を補うかを選択することもプロのライターとして求められる能力です。
また、機械的に、主語をすべて補ってしまうと、自然な会話の雰囲気が出づらくなる点も注意が必要です。あえて主語や述語を省略しておくことで、自然な雰囲気を出すことも、ケースバイケースで求められます。
キャッチコピーでは、主語や述語を省略して読み手の想像を刺激する
逆に、キャッチコピーでは、あえて主語や述語を省略して、インパクトを残す手法があります。
例えば、リゲインのキャッチコピーで有名な「24時間戦えますか。」
これはまさに主語が省略されていますね。「あなたは」と主語を補うと、「あなたは24時間戦えますか。」となり、途端にインパクトがなくなります。
また、主語も述語も省略されたものもあります。例えば、東日本旅客鉄道株式会社のICカード「Suica」のキャッチコピー「日本を、1枚で。」
主語と述語を省略することで、逆に全国で使えることが伝わる秀逸なコピーです。もちろん、写真やイラスト、ボディコピーでの補足は必須です。
このように、キャッチコピーの場合は、あえて主語や述語を省略し、「読み手に補わせる」という手法も覚えておきましょう。
まとめ
- 「何が」の部分が「主語」、「どうする」の部分が述語
- 主語と述語を意識することで、わかりやすい文章が書ける
- 対談原稿やキャッチコピーでは、主語の省略を操り、心に響く文章を書く