はじめに
本原稿では、ネーミングの考え方や作り方のコツや手順について解説します。
一見、誰にでもできそうなネーミング。しかし、経営や商品の戦略的要素であることからも、必要なプロセスを経てさまざまな検討が重ねられる場合が少なくありません。
社名や商品のネーミングはブランディングに直結します。長年使用することによって会社や商品、サービスに対する顧客の信用を蓄積しブランドイメージを形成するからです
それだけに的確なネーミングは会社にとって大きな財産となることは間違いありません。また、社名や商品のネーミングは、認知度や売上効果だけでなく会社で働くスタッフのモチベーションまでも大きく左右する大切な要素です。そのため、ネーミングはマーケティングにおける重要な分野を占めており、ブランド戦略の根幹となります。
しかも、最終的に選び抜いたネーミング案が、いざ商標登録出願の手続きに入った段階で、すでに同じネーミングが登録されており認可されないといったケースもあります。そのような事態にならないためにも、ネーミングが商標法の登録要件を満たしているかどうかなど、事前に確認する作業が必要です。
それでは、実際に商品のネーミングを商標登録するまでの過程をご説明しましょう。
社名や屋号、店名、商品名などのネーミングのアイデア231例
本記事では、社名や屋号、店名、商品名などのネーミングのアイデアと231例をアイデア別で紹介します。新しく事業をはじめる、新商品を開発する、ショップをオープンするなど、新しいことを始める際に必要なことがネーミング、名付け、名称決定などです。さまざまな方法があるので参考にして下さい。
ネーミングの情報収拾と分析
事前に準備すること
関連する情報を収集する
ネーミングは、一度決めると永続的に使い続けることが前提になります。だからネーミングを作成する際は、社名にしても商品にしても、その特徴および特長を客観的な視点から把握することから始めます。ブランドイメージを決定しますし、広告の役割も担う重要な要素なので、可能な限りネーミングに関係する情報を集めることがスタートになります。
企業の商品であれば、商品開発の意図やターゲットとなる客層など、社内の担当者から必要な要点を聞き取り、情報を共有しましょう。開発意図がネーミングにもっともふさわしいのは、よくあります。
起業や創業に関わる社名の場合なら、創業者の思いだけでなく、提供するサービスはもちろんのこと将来のビジョンなども踏まえるのが良いでしょう。
業界や他社のネーミングを分析する
いいネーミングを思いついたと思ったけれど、調べると他社がすでに使っている場合があります。何処かで聞いた言葉が頭に残っているとは、よくあることです。
だから、商品名を考える場合など、競合品のカタログ、ホームページ、テレビCMなどでその商品の特長、客層、イメージなど、ネーミング傾向を分析します。
それは、社名でも同じです。これまでにないサービスを提供する会社は別として、多くは既存の業界に参入するものなので、サービスに関連するようなネーミングの場合は似るケースは少なくありません。
登録されている商標のデータベースは一部公表されているため、過去の商標登録を検索することができます。
「特許情報プラットホーム」 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
商標と社名(商号)の違い
商標と社名は、権利の区分が異なることも知っておきましょう。商標は経産省・特許庁の管轄で、明確に登録することが可能です。一方、社名は法務省に商号として登記するものなので、商標登録する必要はありません。しかし、中には社名と商品が一致する場合があります。有名なところでは、ヤクルトがそうです。商品名がヤクルトで、社名が株式会社ヤクルト本社。こうしたケースでは、商標登録をする方が無難です。
収集したネーミング情報をまとめる
ネーミングに関連する情報やネーミング対象の特長、マーケティング情報を集めたら整理してまとめます。ネーミング用の分析シートを作成すれば、対比や検討がしやすくなります。これが、ネーミングの考え方を理解するための基本的な指標となります。分析シートに定型は、決まっていませんが、およそ次の項目となります。ブランディングを意識したうえで必要に応じてプラスして行きましょう。
ネーミング分析シートの項目例
○商品(会社)
・サービス内容・機能・特長、イメージ方向性 など
○市場
・具体的な内容・コンセプト・特長・販売地域・競合品などの特性について など
○ターゲット
・年齢・性別・年収 など
○ネーミングの方向性
・商標登録をするか・何を重視するか・イメージ・表現方法・文字数 など
ネーミングのアイデアを出す
ネーミングのアイデアラッシュを行う
ネーミング分析シートから得た情報をもとに、特長や想起することをアイデアとして、ランダムに出して行きます。
この時は、あまり条件を絞らずに、ネーミング分析シートから思いつく、ネーミング案やコンセプト案などをランダムに書き出します。複数の人で検討する場合にはスクリーンにシートを映し出し、参加している人が思いつくままに発表します。
アイデアラッシュでは、意見や考えを否定せずに、とにかく数を出します。ネーミングとコンセプトとがごちゃ混ぜになっていても、この時は気にせず、どんどん、アイデアを出します。ネーミングの形になっていなくても構いません。「美しい」「便利」「早い」など形容する言葉もよしとします。
ネーミングの方向性になるコアキーワードを選出
アイデアラッシュにより出てきたものをネーミングとコンセプトに分類します。中にはネーミング=コンセプトの場合もあるかもしれません。ここで注意したいのは、コンセプトがネーミングを包括し、なおかつブランドイメージに合っているかどうか。それらを次のような視点で選別します。
・どのような特長をアピールしたいのか。
・構築すべきブランドのイメージと合致しているか
・高級感、斬新さ、親しみやすさなど、ネーミングによって商品にどのようなイメージを持たせるのか。
・消費者の目線に立ったネーミングとはどのようなものか。
・意味、発音、デザインなど、どの点に重心を置くか。
様々な切り口から商品のネーミングの核となるワードをまとめます。この段階で、もうすでにネーミングとして使えそうなものやコンセプトになるワードが出てきているかもしれません。しかし、もう一工夫して、磨きをかけます。この時点で選び出しもの、あるいはまとめたものをコアキーワードと呼びます。
ネーミングとコンセプトを意識して出してきたのに、それをわざわざコアキーワードと呼び直すのは、時間の無駄ではないか? そのまま使用すればいいのでは? と思われるかもしれません。もちろん、コアキーワードと言っても、最終的にネーミングになる場合もあります。しかし、この時点であえてコアキーワードと呼ぶのは、さらにそこからキーワードへ発展させたり、バリエーションを検討したりするためです。事業アイデアを練る際のイタレーション(反復)と同じような進め方と解釈していただければと思います。
類語を探すにはシソーラス(同意語反意語辞典)を用いる
コアキーワードのバリエーションを増やしたい場合は、シソーラス辞典を用いて検討します。通常の辞典は単語や熟語がアイウエオ順、もしくはアルファベット順に記載されています。しかし、シソーラスは単語や熟語が観念順に掲載されています。日本語のものは文部科学省国語研究所をはじめ数社から出版されており、インターネットでも検索することができます。
ネーミングの表現方法を意識する
ネーミングには、さまざまな表現方法があることも知っておきましょう。コアキーワードからキーワード、そしてネーミングやコンセプトに発展させるときに、以下の点を意識することでさらなるバリエーションが生まれたり、意外な方向性が見つかったりします。
ネーミングの表現方法検討項目
1)使用する文字の種類
(漢字、カタカナ、ひらがな、ローマ字、アラビア数字など)
2)文字使用規制
3)最大字数
4)既成語か造語か
5)綴りを何語にするか
6)読み方を何風にするか
7)単語風か、複語風か、略語風か
8)ネーム案の品詞についての制約
9)発音に関わるウムラウト、セディーユ、トレマ、アクサンなど符号の採否
※日本語や英語以外で、欧州の言葉を使用する場合に考慮します。
10)その他
ネーミングのキーワードを選出する
アイデアや発想が行き詰まらないようにするためにも、直接ネーミング案を出すのではなく、発想の元になるコア・キーワードのリストを作成し、それをキーワードとして展開します。
想起する言葉でキーワードにする
キーワードを選出する方法はいくつもありますが、代表的なものは連想によって導き出す方法です。
コアキーワード | 連想されるキーワード |
花 | 花、香り、春、花びら、開花、花言葉、花束 |
都会 | 都市、洗練、優雅、摩天楼、モノトーン、中心 |
外国語に置き換えてキーワードにする
日本語は、会話の中に普通に外国語が入ります。むしろネーミングでは、外国語化する方が多勢を占めますので、外国語をキーワードにすることは必須とも言えるでしょう。
コアキーワード | 英語 | フランス語 | スペイン語 | ドイツ語 | イタリア語 |
花 | フラワー | フルール | フロール | プルーメ | フィオー |
他の分野でキーワードの意味やイメージに近い言葉を洗い出す
コアキーワードをもとにさまざまなキーワードをピックアップします。意味を展開させたり、イメージから展開させるなど、どんどんキーワードを列挙します。言葉を広げ、収束させることで、その言葉に対する愛着が生まれ、強い裏付けにもなるのです。
コアキーワードの意味から展開する
(例)花 → 花火 花言葉 花飾り 花崗岩
コアキーワードのイメージから展開
(例)優雅な → 天使のような、上品な、夢のような世界、孔雀
語感からイメージをとらえる
商品のイメージを言葉で表現するためには、音の響き(語感)にも注意する必要があります。
1)派手さ、明るさを作る音……きらきら、ピカピカ、パンチ、輝き など
2)優雅さ、安定感を作る音……銀座、帝国、プリンス、源氏物語 など
3)子供らしさを作る音……パチパチ、ピチピチ、ブーブー など
4)都会らしさを作る音……スピード、東京、パリ、摩天楼 など
5)簡単さ、安易さを作る音……ちょっと、すぐ、さっさ(と) など
キーワードはネーミングの材料
キーワードが抽出できたら次は絞り込みを行います。ネーミングの表現方法を意識するで説明した、項目を基準にしてキーワードの整理と選出を行います。そして、いよいよネーミングに入ります。
キーワードは、最終的には20-30に絞り込みますが、リスト化の段階では数百に及ぶことは普通にあります。また、大手のメーカーのネーミングでは、リスト化の段階で商標登録しているのでは?と思われるような商標登録例があります。リストは、その会社にとってもひとつの財産とも言えるものです。
ネーミング方法 語彙の組み合わせ(造語)
1. 足し算 ネーミング(ネーミング素材を足し合わせる)
ネーミング技法の中でも最もシンプルな造語法です。しかし、シンプルなだけに、どんな言葉を組み合わせるのか、ネーミングのセンスが求められます。
【ポイント】
1)文字数の少ない言葉を選ぶ。
2)文字の響き(語感)の強い言葉を選ぶ。
3)意外性のある言葉を組み合わせてネーミングの印象を強くする。
2. 引き算 ネーミング(ネーミングの素材やキーワードから不要な要素を引く)
足し算による造語の結果、文字数が増えたり、語感やインパクトが不十分になった場合にその欠点を補うために行なう技法です。2つの言葉をそのまま足すのではなく、元の言葉の意味を保ちながら発音しやすいように文字を取り除きネーミングにします。
【ポイント】
1)文字数を意識せず意味に重点を置いて言葉を選ぶ。
2)省略後も言葉のイメージが解るように、よく知られた言葉を選ぶ。
3)商品の意図をうまく表現している言葉同士を足し合わせる。
3. 繰り返しネーミング (同じ言葉を繰り返し、重ねる)
商品のイメージや開発意図を、強く印象づけるのに効果的な造語法です。言葉の響きと商品イメージとを両立させるため、キーワード選びはとくに慎重に行ないましょう。
【ポイント】
1)文字数の少ない言葉を選ぶ。
2)商品の特徴をイメージしやすい言葉を選ぶ。
3)文字の響きや文字の視覚的な印象を意識して言葉を選ぶ。
4. 掛け算ネーミング (本来の意味に新しい別の意味を持たせる)
商品を象徴する二つの言葉を掛け合わせて、別の意味を持たせた新しい言葉をつくる技法です。また、一つのネーミングに複数の意味を持たせるためにも使われます。
【ポイント】
1)キーワードは、言葉の響きが似たものを選ぶ。
2)二つの言葉は、語感や印象の良いように前後の組み合わせなどを注意する。
3)ネーミングの示す意図が理解されやすいように造語する。
5. オーバーラップネーミング(言葉をオーバーラップさせて意味を作る)
商品の機能などを語感の良いように変形させ、消費者のイメージと商品とを結びつけやすいようにする技法です。商品の開発意図を、直接消費者に伝えるために医薬品などによく用いられます。
【ポイント】
1)商品の簡潔な説明文を作成する。
2)その中から重要なキーワードを抜き出す。
3)さらに、語感などを考え短縮化させる。
6. 語呂合わせネーミング(言葉のひと字を取り替えて別の意味を重ねる)
言葉遊びなど、ダジャレ感覚でネーミングを考える造語法です。商品名などで、一度聞けば覚えてしまう他、思わず笑ってしまうような、ユニークなネーミングができれば、消費者の印象に残る利点があります。
【ポイント】
1)元の言葉が誰にでも解るものを選ぶ。
2)商品を特徴づける言葉を組み入れる。
3)高級なイメージを訴えたい商品に使用する場合は要注意。
ここで説明しているネーミング方法の具体的な例は下記の記事で紹介しています。
社名や屋号、店名、商品名などのネーミングのアイデア231例
本記事では、社名や屋号、店名、商品名などのネーミングのアイデアと231例をアイデア別で紹介します。新しく事業をはじめる、新商品を開発する、ショップをオープンするなど、新しいことを始める際に必要なことがネーミング、名付け、名称決定などです。さまざまな方法があるので参考にして下さい。
ネーミングの絞り込み
ネーミング案を選り分ける
造語によってできあがったネーミング案を、以下のような基準を設けて選別します。最終的には1案となります。ネーミング選定では社内投票を行うケースが見られます。この際の注意点としては、候補案を全て提示して1回だけの投票にしないことです。候補を絞り込んでいない段階では、不適切であったり、流行など、その時の社会状況に左右される可能性があるからです。社内投票で決める場合は、少なくとも、商標などは、調べたものを数案に絞り込んだうえで行なってください。社内投票の結果、上位となった数案を最終的に決裁者に選んでもらう方法もあります。
1)誰の目からも明らかにふさわしくないものを除外する。
・長過ぎる・発音しにくい・意味不相応・既成語 など
2)音感や語呂の良くないものを除外する。
・優美性に欠ける・強固性に欠ける・発音がしにくい・その音が他のものを連想させる など
3)既知・既存のものを除外する。
・社名・ブランド・建物名・地名・人名・イベント名 など
4)隠語・俗語などで意味の悪いものを除外する。
・複数の意味を持ち、悪い印象を含む など
ネーミング案の評価
絞り込んだネーミング案を客観的な視点から評価します。ここで注意したいのは、評価得点が高いことだけを理由に選定しないことです。あくまでも選定の目安として捉えることです。
機能基準のチェック項目
・インパクト性(印象に残りやすいか。目立つか。)
・記憶性(文字数が少ないか。思い出せるきっかけがあるか。)
・差別性(競合商品との類似点などがないか。)
・発音性(読みやすいか。口・舌を動かしやすいか。)
・可読性(読み方がすぐにわかるか。)
イメージ基準のチェック項目
・独自性(別の言葉と誤解されないか。)
・創造性(オリジナルであるか。)
・先進性(流行に左右されない、新しさがあるか。)
・専門性(商品の特徴を想起できるか。)
・信頼性(コンセプトが伝わり、信頼を感じられるか。)
上記評価を踏まえて、最終的にネーミングを決定します。
商標登録に向けて
特許庁に申請し登録されたネーミング(商標)は、登録後10年間「排他独占的な権利」が保証されています。絞り込んだネーミング案が商標として使用できるか、出願前にまず商標登録の可否を確認する作業が必要となります。
商標の先願調査
商標を登録する前段階の確認作業は、専門的な知識が必要となるため、弁理士への相談をおすすめします。その前に、特許庁の商標無料検索サービスなどを利用し、粗チェックをしておきましょう。
商号(法人名)を登記する場合には、会社の所在地を管轄する法務局で同一業種の類似商号がないかをあらかじめ確認する必要があります。類似商号がなければ登記することができますが、「不正競争防止法」で禁止されている有名商標は使用できません。
商標出願手続き/商標登録
同一商標が登録されていないことが確認できれば、特許庁への出願手続きへと移ります。日本の商標は先願主義のため、同一商標の出願があった場合は少しでも早く出願した者に商標権が与えられます。
出願してから審査着手には分野や時期によって異なります。以下のサイトを参考にしてください。
商標登録が完了すると、社内報用・会社案内用・宣伝用の新商品に関する広告ツールを作成し、商品販売のステップへと進みます。
以上のように、ひとつの商品のネーミング作業でも資料の収集・分析に始まり、造語、選別、出願調査など多くのプロセスを必要とします。ひらめきもひとつの重要な要素ではありますが、そのひらめきでさえも、ここでご紹介したようなプロセスを脳内で処理して導き出しているにすぎません。
ネーミングは、幅広い視野と見識、語学力や発想力など多角的な才能が絡み合いながら日々生み出されているのです。
まとめ
ネーミングはアイデアも重要ですが、しっかりとした手順を踏むこともとても大事です。さまざまな視点からネーミングを考慮しましょう。ただし、何より重要なことは、オリジナリティが高いことです。手順を踏むというのは、いいアイデアを排除することではありません。「こういう見方もされるよね」という確認作業です。プロセスを経て、とても良いアイデアが排除されるのは本末転倒です。